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健康情報 2020.03.09

「睡眠不足」は自覚できるが「 睡眠負債」は自覚がない
「睡眠不足」は自覚できるが「 睡眠負債」は自覚がない

早寝早起きが大切というのはわかっていても、仕事や家事に追われ、あるいはインターネッ トやテレビに夢中になって寝不足気味という声をよく耳にします。朝起きても疲れがとれていない、気分が晴れない、日中も頭がぼ―っとするといった程度であれば、それほど深刻に考えないかもしれませんが、こうした状態が続くと脳や体に取り返しのつかない影響が及ぶかもしれないというのは、早稲田大学 研究戦略センター教授・ 脳科学者の枝川義邦先生です。「 毎日1、2時間の睡眠不足は大したことがないと思えますが、 それが10年2 0年と続くと、思いがけない不調や病気を招くことがわかってきています。こうして積み重なった睡眠不足のことを、借金に例えて「 睡眠負債』と呼んでいるのですが、睡眠負債が厄介なのは多くの場合、本人がそれを自覚していないことです」

睡眠負債の場合は、本人は睡眠が足りていると思っていることが多いといいます。 「 睡眠負債は、潜在的な睡眠不足ですから、本質的に睡眠が足りていない状態です。本人に自覚がないため、脳や体への影響が徐々にたまっていくことになり、ある日、突然、重い体調不良に見舞われるという危険性があります」 借金ゼ国のつもりが、 実のところ 「借金まみれになっていた 」というのが睡眠負債の怖さです。 もの忘れが増えた、怒りっぽくなった、などの変化は要注意

「 睡眠不足によって影響を受けやすいのが脳の前頭前野という部分です」と枝川先生は解説します。前頭前野は、感情。 行動の制御、記憶の定着、意思決定などに関わっており、睡眠不足が積み重なると、前頭前野の働きが悪くなり、忘れっぼくなる、判断力が鈍る、感情的で怒りっぼくなるといった症状が表れるといいます。
「 徹夜明けに頭がぼ―っとして物事を判断しづらくなるというのは、多くの人が経験していることですね。これが昨晩徹夜したからだと原因がわかるようであれば軽症といえますが、睡眠負債が重症化している場合は、 本人にそれと自覚がないことが多いので、家族や職場の同僚といった周囲の人が変化に気づいて睡眠負債の可能性を指摘してあげることも重要です」
そのほか、免疫力が低下し細菌やウイルス感染しやすくなるため、風邪を引きやすくなっ たり、食欲のコントロールが利かなくなるため、太りやすくなったりするのも、睡眠負債に よる不調として挙げられるといいます。糖尿病、高血圧、認知症、 がんのリスクも高まる。
「 睡眠負債 の恐ろしさはそれだけではありません。負債が大きくなると、本人は起きている もりでも、脳が勝手に眠ってしまうというマイクロスリープ ( 瞬間睡眠)現象に陥る危険性があります。もし、車を運転中であれば、取り返しのつかないことになってしまいます」 さらに、長期にわたり睡眠負債が積み重なると、さまざまな 病気のリスクが高まることもわかってきているといいます。肥満にともなう糖尿病、血圧上昇による高血圧、脳梗塞やアルツハイマー型認知症のほか、免疫力が低下することから、がんのリスクも高まるといわれています。男性の前立腺がんの罹患率 が 1.38倍に、女性の乳がんの罹患率が
1.67倍に高まるというデータもあると枝川先生鐘を鳴らします。

6時間睡眠では、負債をためてしまうことに
それで は、1日にどれくらいの睡眠をとれば負債をためずに済むのでしようか。
「 アメリカの研究チームが6 時間睡眠を2週間続けた人の脳の働きを測ったところ 、 2日間一睡もしなかった人と同じ状態にまで低下していたというのです」 しかし、6時間も眠ったとなれば、寝起きもすっきりしており、日中も十分に脳や体が働いていると感じられるものです。


つまり、本人が十分睡眠が足りていると思っていても、実は 、 知らず知らずのうちに脳に 大きな負荷をかけてしまっていることを示しているのだと枝川先生は分析します。 「 成人であれば、1日6時間半〜7時間半程度の睡眠が必要です。しかし 、日本人の睡眠時間を調べてみると、6時間未満という人が40%、7時間未満を含めると70%を超えますから 、 ほとんどの人が睡眠負債を抱えているといってもいい状況です 」

負債は寝だめをしても解消できない
たまった負債は、週末の寝だめで一気に解消と考える人も少なくないでしょう。しかし、寝 だめはかえって逆効果だと枝川先生は指摘します。長く寝れば寝ただけ、脳の疲労が解消されるといえば、睡眠のメカニスムはそんな単純ではありません。睡眠によって得られる疲労回復などの効果は、寝入ってから3時間が最も高く、その後、時間が経過するにしたがって低くなります。さらに長時間眠ると起床後の活動時間が後ろにずれ、生活リズムを崩すことになりかねません」
たとえば、休日は疲労回復を狙い、昼過ぎまで寝ているという人がいます。しかし、それで は夜になってもなかなか寝つけなくなるのが道理。その結果、 睡眠リズムが乱れ、休み明けもすっきりしないままというのがこのパターンといえるでしよう。 「 寝だめはかえって睡眠負債を増やすことになりかねませんから、ふだんより長く眠るとしても、プラス2時間以内に留めてください。負債は、毎日こつこつ 返していくしかないのです」 次ページで は、睡眠負債レベ ルのチェックリストを掲載しています。さっそくチェックしてみましょう。

 

 

 

1、現在の睡眠時間プラス1時間から始めよう
睡眠負債は時間の借金ですから、その返済は時間で行うのが基本と枝川先生は解説しますが、 長年にわたって積み上げてきた 借金は、短期間で返せるものではありません。 「 睡眠負債が疑わしい場合には、『 現在の睡眠時間プラスー 時間』を1週間続けてみてください。1時間早く寝てもいいですし、30分早く寝て30分遅く起きてもいいでしよう。それも無理であれば、30分だけプラスするというのでも構いません」また、昼寝を取り入れるのも一つの方法です。ただし、15〜 20分程度のプチ昼寝にとどめるのがコツ。前述したように、それ以上長くなると睡眠が深くなり 、 目覚めが悪くなったり 、夜 、目がさえて眠れないといった事態を招きかねないといいますか 注意が必要です。実行してみて 、以前よりもすっきりと起きられた、疲れやだるさが減った、仕事や家事のパフォーマンスが上 がったなど、手応えが得られたら睡眠習慣が改善している証しです。

2、質の高い睡眠
中には睡眠時間を1時間プラスしてみたけれど、寝不足 感が一向に 解消しない人もいるでしょう。単純に言 ば、さらにも1 時間プラスしてみてください。
い 、ということになりますが、 なかなか現実が許さない人が多いのではないでしょうか。そうした訴えに枝川先生はこうアドバイスします。 「 睡眠によって得られる効果は、時間を底辺、質を高さとす と、長方形の面積が大きいほど睡眠がもたらす効果が高まります( 上図) 。たとえば、6時間半しか睡眠時間を確保できなくても、睡眠の質を高めること で 、より高い疲労回復効果が得られるようになるでしよう」 つまり、睡眠時間の確保と併 せて睡眠の質を高めることも大事ということです。これを実践 するには、日々の生活習慣の見直しが必要になります。

3、生体リズムを整える
「 心身のダメージを回復させる成長ホルモンが多く分泌される入眠後3時間のうちに、しっかり深い眠りに落ちていることが質の高い睡眠の条件といえます。そのためには、ふだんから生体リズムを整える生活習慣をつけることが大切です」と枝川先生。 生体リズムは、日の光に当たることや、食事時間、体温上昇などによってコントロールされているといいます。 「 朝、目覚めたらカーテンを開けて窓際に立ち、15秒ほど日光を浴びましょう。曇りや雨の日でも十分に効果があります。 光を浴びることで、睡眠を促すホルモンの一 種メラトニンの分泌が止まると同時に、次の眠りに向けて、1 4〜1 6時間後に分泌が始まるようセッティングされます」 生体リズムを守るためには、 1日3食をできるだけ毎日同じ 時刻にとるのが理想的です。とりわけ、朝食はきちんととるようにしましょう。朝食をとることで消化器官も働き、体の深部の体温が上がり、目覚めもすっきりします。しっかりと体温を上げ日中を活動的に過ごすことで、夜間にはスムーズに深い眠りヘ誘われるというわけです。
また、ウォーキングや水泳などの軽い運動を取り入れるのも効果的です。特に、午後4時か ら8時の時間帯の運動が、睡眠をもらたすメラトニンの分泌を促すことがわかっています。ジムなどで体を動かすのもいいですし、電車を1〜2駅前で降り、 歩いて帰宅するのもおすすめで す。

4、寝つきをよくする
夜の入浴をシャワーで済ませてしまってはいませんか。質の高い睡眠を得るためには、ぜひ、 浴槽につかることを習慣にしたいところです。 「 入浴によって体温が上がると、逆に下げようとする機能が働き、入浴してから約1時間かけて体温が下がり始めます。就寝1〜2時間前に3 9〜4 0度程度 のぬるめの湯に15分ほどつかるのがおすすめです」。

さらに、就寝前1時間の過ごし方が寝つきを左右すると枝川先生は声を大にします。中でも 控えたいのが、スマホやテレビ、 パソコンです。液晶から発せられるブルーライトを浴びると 「 朝だ」と脳が誤った判断をし、 メラトニンの分泌が抑制されて目が覚めてしまうのです。ネッ トサーフィンをしていると、つい夜更かししてしまうのもこのためです。就寝前は、家族やパートナーとの会話、読書、音楽 を聞くなど、リラックスして過 ごしましよう。
また、遅い時間に夕食をとると、寝るまでに消化が間に合わず、睡眠の質を低下させることになります。就寝の3時間前までには夕食を済ませ、寝床に入るときには消化と吸収がほぼ終わっているのが理想的といいます。 一方で完全な空腹状態になってしまうと、空腹感が気になって寝つきにくくなってしまい ます。そんなときは、ホットミルクや温かい麦茶などをカップー杯飲んで落ち着かせるとよいでしょう。

5、睡眠日記を付けよう
負債をためないためには、自分の睡眠習慣を知ることが必要です。 そこでおすすめなのが「 睡眠日誌」です。継続して記録することで自分の睡眠を客観的に 把握すれば、不調の原因や対処法を考えやすくなります。 下の記入項目例にあるように、 左側には朝食の有無、食事や入浴時刻、就寝・ 起床時刻、途中覚醒の回数を記録。右側には日中の活動について、日覚めたときのすっきり感、日中の眠気や気分、 仕事や家事などの効率性や達成度を振り返り、記入しましよう。 「 左右の記録を見合わせると、 睡眠が日中の活動に影響を与え ていることがわかってくるはずです。たとえば、睡眠時間が少なかった、あるいは、夜中に何度も起きて睡眠が浅かった日は、 気分がすぐれず、イライラしていたなどの発見があり、改善策が見つかるでしょう。